第三世界
外国人がガーナやベネズエラ、スリランカなどの土地で事業を始める。その国に熱烈な恋をしたか、その土地の人間と恋に落ちたかが主な理由だ。
どちらも正当な出発点だが、始めてほどなくささやかなアメニティが恋しくなってくるのも事実。たとえば新鮮なチーズやベーカリー、映画館など。信頼の置ける配管工もぜひほしい。
郵便書留一通送り出すのも半日がかり、電気代を支払うのは現地の人にもちょっとしたチャレンジになるほどわかりにくい。
交通状況もくせものだ。ドイツの高速道路並みに大型トラックが猛スピードでレースをしているかと思えば、次の交差点からは渋滞で1センチも動かない。
しかし寒い国で引退を待ってこつこつ働いているかわりに、もっと特別なことをしているという気持ちは、これらを越えるのかもしれない。
しかし正直なところ、ほんとうにそれでいいのか分からないようなケースが多々存在する。
私はコロンボ市内で数少ない住宅地の中の家にブロードバンド、512kbitの高速通信回線を引いた。私は自分のビジネスがグローバルコミュニケーションの力と繋がったことが心底嬉しかった。意志あるところに道がある。そう信じていたのだ。
翌週私たちの隣人は3台のチェーンソーの広範囲な使用を含む新しいビジネスを始めた。ノンストップ、夜明けから真夜中まで休日なし。もちろんクリスマスも年末年始もチェーンソーは鳴り響く。
そして私のブロードバンドといえば15kbit とまるで死んだように遅い。これはホットメールも開けない速度だ。
テレコムに連絡するもチェーンソーのおかげで私は自分の怒鳴り声さえも聞こえない。3日後(!)やっとテレコムの緊急サポートが到着した。配電盤から我が家へつながる電話線に引っかかっているコウモリとカラスの死骸が原因とのこと。それを取り払ったがもちろん速度は変わらない。
次にテレコム緊急サポートは私のモデムが悪いと言い出した。しかしモデムを交換しアップグレードをしても速度は変わらない。
そのうち私は気がついた。真夜中から明け方までは速度がぐんと上がるのだ。モデム販売者は言った。『チェーンソーが通信を妨害してるんだよ。』
チェーンソー!?
私の35年のハイテク生活による知識から考えれば、そんなことは単純にありえない。それでも私はチェーンソーの妨害を受けないモデルを探すのに奔走した。神経が破壊されるような努力の一週間後、速度はささやかに17kbit にアップした。
私の忍耐は限界に達し、もはや仏教的教えにすがっても平成を保てなくなった。私の神経とビジネスモデルは隣人のチェーンソーできりきざまれたのだから。
ついに私は隣人を訪ねることにした。最高の笑顔と最高の地酒アラックをたずさえ、もしチェーンソーを止めてくれたら永遠の友情と充分な謝礼を差し上げると申し出た。隣人は非難されたと思ったのかとたんに腹を立て、私はひどく不安になり警察を呼ぶと告げた。
驚いたことに隣人は同意した!
『いいね!警察を呼ぼうじゃないか。』
3時間後軍曹がやってきた。薄汚れた制服のでっぷりと体格のいい軍曹は、酒で赤くよどんだ目で私を睨み付ける。
私はとたんに気分が悪くなったが諦めはしなかった。決然とし、理論的に友好的に分別をわきまえて状況を説明した。私が正しい要求をしていることは誰の目にも明らかだったはずだ。住宅街で始終チェーンソーが鳴り響くのは許されない。
私の説明中軍曹は一言も発しない。説明が終わると軍曹はゆっくり隣人に向き直りシンハラ語で談笑を始めた。
私のシンハラ語の理解力で分かったことは軍曹と隣人は親戚同士ということだ。
静かで涼しい土地にオフィスを持ちたいとこの時ほど熱望したことはない。
次の家を探している間、真夜中から明け方までが私の仕事時間となった。
こんどの家は海岸沿いあたりがいいな、と思っているのだが、どうだろう・・・。
エドワード・ブリストル»